岡崎が次々と衣装のコーディネートを決めていったので、私と石ちゃんは到着したモデルたちの着替えを手伝った。最近はよくテレビにも出ているヘアメイクアップアーティスト、Mikuさんの手によって更に美しくなったモデルたちの、丁寧にペディキュアされた足元にしゃがみこんでサンダルをはかせている頃には、私の心は空しさでいっぱいになっていた。
「よろしくお願いしま~す」
「お願しま~す」
「あ~! みどりさん、久しぶり~!」
3人のモデルたちの声から少し遅れてスタジオに入ると、たった数時間前はただの真っ白な空間だったそこは、パリジェンヌが住むようなアパルトメントへと世界を変えていた。プロップスタイリストのみどりさんが緑色のアンティークチェアの位置をチェックしている後ろで、彼女のアシスタントの男の子が細かいフラワーモチーフの壁紙を、大きな木の板に張り付けている。
「すっごい素敵......」
思わず声をもらしたのは、石ちゃんだった。「みどりさんってもしかして、斎藤みどりさん? よく雑誌のクレジットでお名前を拝見していて......」と、興奮をおさえられない様子で私に聞いてきた彼女の手を引いて、みどりさんやカメラマンの一色さん、それぞれのアシスタントたちに挨拶をしにいった。雑誌の編集長と編集者、ファッションライターたちは岡崎と何やら話し込んでいたので、邪魔にならないように遠くから軽く会釈をした。
今回は、ここ数年間トップの売れ行きをキープしている20代向けの女性誌の、巻頭に入る春のファッション特集と表紙の撮影だ。ここにいるスタッフは、プロの中でもトップレベル。今、彼女たちの名前を知らない女の子はいないんじゃないかというくらいの売れっ子モデルたちはもちろん、クリエーターたちも超一流。もちろん、私の師匠、岡崎隼人もその一人。
モデルたちと何やら笑いながら喋っていたカメラマンの一色さんが、スタジオに爆音で音楽を流した。あ、このイントロ。大好き、この曲。「なんだっけ、これ?」。小さな声で石ちゃんにボソッと聞くと、「MONDO GROSSOの『LIFE』ですよ」。あ、そうそう、そうだった。
「寺田! その右端のベスト持ってきて!」
師匠の突然の叫び声に、私は驚きながらも「はい!」と大声で返事をして、師匠が指さすラックへと走った。デニムのベストからタグを取り、モデルから蛍光ピンクのパーカを脱がしている師匠の元へと走って持ってゆく。そして、受け取ったパーカにタグを取り付けてラックに戻していると、後ろからシャッター音が聞こえ、撮影が始まった。
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